私は兄の影響もあって、長渕剛が好きであった。
特に1989年『昭和』から1993年『Captain of the Ship』までの4年間は、日本音楽史史上に残る躍進で、この数年で長渕剛が残した功績は大きい。
9歳少女による長渕剛
自分自身の多感な時期と重なったこともあって、特にこの時代の長渕剛さんの歌はとても好きである。
私もギターとハーモニカをやっていたから、高校生のころは学園祭で弾き語りで演奏したりしていた。
そんな長渕剛さんの歌を、9歳の頃からカバーし、YouTubeにアップしている少女がいる。
それが、「稲田麗奈」だ。
解説欄には、
ギターを始めて3ヶ月です。初めて覚えた曲です。まだまだですが練習して上手くなりたいです。9才小学4年です。
とある。
この動画が稲田麗奈が最初に投稿した動画であった。
心に響く歌声
以降、彼女は不定期で、長渕剛さんの歌を中心に、ギター一本の弾き語り動画をアップしている。
彼女が歌う長渕剛の歌は、とても心に響く。
彼女は圧倒的にギターがうまいわけでも、歌がうまいわけでもない。
いわゆる、テレビによく出てくる「天才ちびっ子」の類ではない。
しかし、稲田麗奈の歌声は、長渕剛というアーティストが表現しようとするそれとはまた違ったベクトルで、長渕剛の歌と同じくらいの響きを併せ持つ。
少女が歌う「泣きっ面にションベン、引っ掛けられた夜」というフレーズには、味わったことのない感情に出会う。
稲田麗奈のCDを出そうとした
実は彼女に一度、連絡をしたことがある。
当時音楽メーカーにいた私は、稲田麗奈が歌う長渕剛のカバーアルバムをリリースできないかと考えた。
しかし彼女は(長渕剛の出身地である)鹿児島に住んでいて、もちろん未成年であるし、うちの会社の体力的に、全てをプロデュースする余力がなく、断念した。
そして私も音楽業界から離れてしまった。
稲田麗奈は現在17歳
この動画は14歳。
長渕剛の代名詞とも言えるTakamineのNPT-012を見事に弾きこなしている。
これが16歳。
ものすごく細く繊細な歌声でありながら、声はどしっと低く、力強いところが聞いていて本当に刺さる。この響きはやはり昔の長渕剛のそれと近い。
そしてこの目。
堂々たる表情だ。人に何かを届けるアーティストの顔になっている。
これなんて、そのまま「カロリーメイト」のCMに起用できそうな気がする。
そして彼女は長渕剛だけではなく、吉田拓郎などの歌もカバーしている。
これは名曲『落陽』。
今や様々なLIVE動画をアップしている彼女だが、これはベストアクトに近い。
弾き語りをずっとしている人の短所に、リズム感が養われないことが挙げられるけど、彼女はリズム感がとてもいい。
そして現在17歳。
もちろん彼女はカバーシンガーではない。シンガー・ソング・ライターだ。
オリジナル曲も多数あり、自主CDもネットで販売している。
オリジナル音源も聞いたけど、なかなかいい。
ぜひ一度LIVEに行ってみたい。
音楽業界はもうお金がない
音楽業界にいた身からすれば、近年、音楽業界ほど失墜した産業はないと思う。
ただおそらく今の10代のミュージシャンたちは、「音楽で一発当てて大金持ちに」なんて夢見る人はいないだろう。
ただ純粋に歌うことが好きで、それを誰かに届けたくてやっている。
大金持ちになることを夢見なければ、表現活動はいくらでも自由にできる時代でもある。
彼女が発信を続ける以上、それを受け取っていきたい。
反則的な歌声
カバーで有名になったアーティストがオリジナル曲で響かすのは容易ではないが、彼女がその壁をあっさりと越えられるのは、やはりこの歌声にある。
この声で歌われたら、どんな曲でも泣ける名曲に変わってしまう。
稲田麗奈の歌声の良いところは、とにかくまっすぐなところにある。
そう、まさに彼女の曲にある通りだ。
汚い言葉が飛び交うネット社会の中を、稲田麗奈のまっすぐな歌声が、汚れた人の心を浄化していく。
中島みゆき嬢の『ファイト!』やってくれないかな。
稲田麗奈なら、満島ひかりさえ凌駕する。
おそらくそのうち、どっかの番組が彼女を取り上げるだろうが、私からすればそれでも遅すぎると思う。
この逸材に気づかずして、メディア業界にいるなんて、片腹痛い。