鷺谷政明の埼玉県外

人と被らない会話の小ネタ

2018紅白サザン桑田佳祐とユーミン奇跡の共演の真実①

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2018年、平成最後の紅白歌合戦が終わった。

私は、HMVのショップ店員を含めれば、メーカー(音楽プロデューサー)時代を含めて、約8年間音楽業界で仕事をしてきた。

音楽業界のいい話も怖い話も散々聞いた。そのうえで、今回の、2018紅白歌合戦のサザンオールスターズのステージに特化して、あの模様を解説したいと思う。

異例のエンディング

エンディングを飾るのはサザンオールスターズ。

白組でも紅組でもなく、特別枠。

椎名林檎と宮本浩次の特別枠は分かる。デュエットだから。

でも、サザンオールスターズはどう見ても白組だ。

しかし、白組ですらなく、特別枠。

これは相当異例である。

紅白中継出演アーティストの裏事情

紅白歌合戦の楽屋は一つの大部屋であるというのは、過去出演したミュージシャンの発言からしても信憑性が高い。

つまり、どれだけ売れてるアーティストであっても、雑多な楽屋で控えてないといけないのだ。

全国民が見る歌番組の出演前、大勢のアーティストに囲まれて下準備をするのは相当しんどい

嫌な事務所、嫌なマネージャー、過去交際経験がある相手がいようといまいと、全部が一堂に会する

なぜそんなところでこの私がポツンと控えてないといけないのだ、という出演者らの不満は相当あると想定される。例えば中島みゆきさんがそこにいたら、回りもどうしたらいいかわからない。

それを解消するのが中継枠なのだ。

自分のライブからであったり、とにかく中継先からの出演であれば、そのストレスから逃れられるし、過去、中島みゆきさんや長渕剛さんにしても、大物は中継が多かったのは、そういった経緯があったからと考えられる。

中継でもいいので出てください

紅白歌合戦としては、一人でも多くの有名アーティストに出て欲しい。しかし、NHKという理由から発生する諸事情(楽屋問題、面接問題)は確かに面倒くさい。

「なので、出ません」とアーティストは辞退する。

そんなときに使う紅白歌合戦サイドの伝家の宝刀が「じゃあ中継先からでもいいので」という交渉術だ。

どうしても出て欲しいけど、アーティストサイドが出演に伴う諸事情を懸念している、という場合に、NHKは「中継先からでもいいので」という交渉枠を使う。

実際に、過去、大物アーティストはほとんどが中継先からの出演であることがわかると思う。

今回でいえば米津玄師もそれに該当する。

異例のサザンオールスターズ出演枠

今回はその交渉枠のもう一つ上を作った。

それが、「どうしても会場出演して欲しい。そのかわり、白組でも紅組でもなく、特別枠で、トリで、二曲やっていいので」というもの。

平成最後ということもあり、どうしてもNHKが出場させたかったのが、サザンオールスターズだったのだ。

ミスチル、Bz、ドリカムといろいろいるが、やっぱり平成最後のトリを務めるのは、サザンオールスターズしかないとNHKは判断したのだ。

曲順

異例の特別枠での出演が決まったサザンオールスターズ。

曲目は『勝手にシンドバッド』と『希望の轍』と事前に発表された。

NHKとしては、『勝手にシンドバッド』で盛り上げて頂いて、『希望の轍』で締めてほしい、と考えるだろう。

しかし私は、そので演奏したら、すごいことが起こるかもしれないと考えていた。

蓋を開けてみると、本当にすごいことになった。

まさかの曲順

実際演奏されたのは、『希望の轍』が先であった。

「これは」と思った瞬間だ。

つまり、平成最後の歌が『勝手にシンドバッド』になるということ。

あれは、天才が軽音サークルノリで作ったむちゃくちゃな曲である。

これはもう、桑田佳祐さんがやらかすフラグ

過去この人は、政治的なメッセージで紅白歌合戦で問題を起こしている。

今回もまた、なにかやってくれるだろうと私は期待していた。

政治的なことでなくても、下ネタかなにか、そっち系でなにかやらかしてくれるに違いないと。

中盤変わり始めた桑田佳祐

サザンオールスターズの出番となり、最初の『希望の轍』を歌っている中盤、カメラが桑田佳祐さんを捉えきれないシーンがあった。

下に降りてきたのだ。

おそらくこれは、リハの想定外だったのではないかと考えられる。

なのでスイッチャー及び、カメラマンがついていけなかった。

だとすれば桑田佳祐さんはなぜ、リハ以外のことをしたのか。

それは、

アーティストとしての血が騒いだ

からだ。

見ていれば分かるが、確実に中盤から桑田さんの表情が変わった。目が変わった。

緊張、厳粛、といった目から、アーティスト・桑田佳祐になっていった。

NHK紅白歌合戦に出演している顔から、サザンオールスターズのライブをやっている桑田佳祐になったのだ。

起きた事件

桑田さんは、過去に紅白歌合戦で問題を起こしたこともあって、出場前も、終始謙虚であった。

自分なんかがそんなたいそうな枠をもらって、恐れ多いです、と。

しかし、『希望の轍』を歌っているうちに、だんだん目覚めてきてしまったのだ。

そのあとで『勝手にシンドバッド』となれば、事件は起こるべくして起こる

ユーミンとの共演

その流れで突入した『勝手にシンドバッド』では、サンバガールたちの登場となり、いつものサザンオールスターズのノリになってくる。

終盤、出演者らが集まってくるのは台本にあったことだと思うが、まずはサブちゃんこと、北島三郎さんがフレームインした。

桑田さんも日本音楽界のレジェンドに忖度し、途中から「サブちゃーん!」と連呼していたので、十分フリはあった。

ただ、サブちゃんは笑っているばかりで、マイクを口元に持っていかない

桑田さんが何度か「(歌ってよ)」と振っても、笑うばかりで反応しない。

これは、人の歌を邪魔してはならないというジャンル(演歌)的なことと、世代的にも、コラボといったアドリブ力が問われる世界に身をおいていないこと、そして、「紅白引退」と宣言しておきながら「平成最後だし出てよ、とNHKに言われちゃったから、とりあえず今回は復活しちゃうね」という、サブちゃんの前言撤回的な後ろめたさもあったのかもしれない。

それを気にせず飛び込んできたのが、女王、松任谷由実さんだ。

知るかボケ精神

下手から出てきた松任谷由実さんは、最初は後ろに位置していた。

しかし、天才的な嗅覚で「ここは私」とばかりに察知し、そのうえ、「サブちゃんはマイク使わなかったけど、私は使うわよ」と言わんばかりのマイク捌きを見せ、PAも、松任谷由実さんのマイクの音量はすぐに上げた。

カメラマンやスイッチャーもそんな奇跡のコラボを捉え、ラストはほぼ「桑田×ユーミン」の構図になっていた。

漫画『マスターキートン』の中に「謙遜は美徳とは限らないよキートン君」というセリフがあるが、そこで遠慮するほうが誤りであるとばかりに、ユーミンは、「胸騒ぎの腰つき」を年甲斐もなく披露してみせ、圧巻のコラボを即興で実演した。

「サザンの歌に入ってくるなよ」「いい年して腰振るなよ」「サブちゃんやいろんなアーティスト差し置いて出しゃばるなよ」

このご時世すぐに想定されるそんなクレームの声。

そんなこと知ったことか。

これが天才が具現できる「知るかボケ」精神である。

最後の最後は人の目なんて関係ない。

自分がやりたいようにやるのが能力者なのだ。

台本はあったのか

「(ベテラン勢から)順に入っていってください」という程度の指示(台本)はあったかもしれない。

または、GOを出すときに、北島三郎さんと松任谷由実さんを優先的に促したのかもしれない。

私はおそらく後者だと思う。

なぜなら、「最後は、北島三郎さんと松任谷由実さんを先に」と台本に書くと、他アーティストに角が立つからだ。

「なんであの二人が優先で、私らが後からなの?」と各事務所から文句を言われる可能性があるのだ。

なので台本上は「最後はみんなで参加して歌いましょう」程度だったのではないか。

しかし現場では、その二人に優先してマイクを渡した

サブちゃんは、先述したような経緯もあってか遠慮がちだったが、ユーミンはやってくれた。

サブちゃんが控えてるから私も控えよう、なんて忖度する程度の人だったら、ユーミンもまた、あれだけの人になっていない。

ここで火が点くのがスター、ユーミンという人なのだ。

そもそも今回ユーミンは、先述した「中継出演のつまらなさ」を逆手に取って登場した人である。

エンターテイメントとはなんたるか、を知り尽くした女王なのだ。そらaikoも泣く。

桑田佳祐と松任谷由実の関係性

この二人の関係性を整理しておくと、「ラララーラララユーミンさーん」「ラララーラララ桑くーん」といったところから見ても分かるように、松任谷由実さんの方が先輩にあたる。

松任谷由実さんは1954年生まれ、デビューは1973年、桑田佳祐さんは1956年生まれ、デビューは1978年なので、年齢から芸歴からユーミンの方が圧倒的に先輩だ。

なので、終始「先輩すいません」といった桑田さんの気づいかいが見て取れる。

途中で「恋人がサンタクロース!」と桑田さんが叫ぶあたりが本当におもしろい。

お互い、何十年もこのJ-POP業界でやってきた戦友であり、一流なので、以心伝心、阿吽の呼吸で伝わるのごとく、完璧なパフォーマンスを見せた。

そもそも乱入した序盤から松任谷由実さんは桑田さんにキスするテンションだ。

スター特有の嗅覚による「知るかボケ精神」「やってまえ精神」で、圧倒的インパクトを残した。

これを、「サザンに便乗したユーミン」と見る人もいるが、それは違う。

ユーミンがあそこまで乗っかってきたから、サザンのライブが象徴的になり、記憶に残るものになったのだ。

そしてまた、ユーミンをそこまで乗せるサザンあってこそであり、そこにいち早く呼応したユーミンもまた、天才なのである。

NHKだろうと、紅白だろうと関係ない。俺たちが日本の音楽シーンを作ってきたんだといわんばかりの圧巻のステージ。

結果、平成最大のインプロビゼーションを見れた紅白歌合戦であった。 

能力者たちのアドリブ力

ラスト、ユーミンがちゃんとサブちゃんに歩み寄っていくあたりも、芸能界のしきたりを感じるし、最低限の筋を通しにいく芸能力を感じた。

サブちゃんもまた、紅白の歴史を築いてきた一番の功労者である。

そんな、紅白のドンの目の前で好き勝手やらせてもらう以上、やはり筋は通さないといけない。

桑田さんもユーミンも天才ではあるが、こういったところの配慮できるからこそ、相応の大舞台を手にしてこれたのだ。

いつの時代も、破天荒なロックンローラーこそ礼儀正しく、パンツ一枚で暴れる芸人こそ頭がいいものだ。

また、ユーミンとさぶちゃんが手をつなぐ間の後ろにYOSHIKIさんがいたのも象徴的であった。

桑田さん自身も、ユーミンやサブちゃんはもちろん、最後はウッチャン、櫻井翔、さらには「(広瀬)すずちゃん最高!」とまくし立て、やはり最後は「さぶちゃんさすが」の一言で締める巧みさ。

音楽的才能だけでなく、芸能力的処世術をも感じさせる、スターたる所以を見せつけられたサザンオールスターズのステージであった。

才能や巧みさだけではダメ。空気を読みすぎても、読まなすぎてもダメ。

礼節を重んじながら破壊していく瞬発力が、いつの時代のスターにも問われる。

いいとも最終回

今回の奇跡の共演は、『笑っていいとも!』最終回で、とんねるずとダウンタウンが奇跡の共演を果たした光景に似ている。そう、当人同士は「面白ければやってまえ」精神なのだ。

あの事象は、タモリさんという器のでかさが巻き起こしたと言われているが、であれば、今回は内村光良さんという人が巻き起こした奇跡とも言える。

天才を台本で管理することはできない。

それをやろうとしても、事前に事務所サイドが忖度したり、既得権益の奪い合いが発生してしまうからだ。

そもそもこの共演を商業ベースで具現化しようと思ったら、何億かかるかわからない。

しかし、板の上で当人同士はそんなことは関係ない。いかに自分が出るか、目立つか、そして最終的には、その舞台が盛り上がるかどうかが全てなのだ。

最後に、今回のサザンオールスターズのカメラワークやスイッチングは、FACTORYミュージックステーションレベルの高さであったことを記し、筆を置く。