あいみょんが出演した関ジャムを見た。
年下のミュージシャン
年下のミュージシャンに、心を奪われたときのことを覚えているだろうか。
どんな人でも小学生、中学生くらいのときは好きなミュージシャンの一人や二人はいるものだが、高校生、大学生となり、大人になっていくどこかのタイミングで、自分より年下のミュージシャンに惹かれる瞬間が現れる。
自分でいうと、宇多田ヒカルが最初だったような気がする。
彼女は学年でいうと俺の3つ下で、うわあ、すごいのがでてきたと、当時思った。
あいみょんの神様は草野マサムネ
昨今、若い世代に人気のあいみょんも、ちょっと気になる存在ではあった。
どこか90年代テイストのその音楽に、耳を奪われる。
そんな彼女の神様は、草野マサムネだという。
その事実を知ったときは、とても上から目線で好感を持った。
ほお、若いわりにいいセンスしてるじゃねえか。うむうむ、苦しゅうない、といった、実に上から目線の好感だ。
あいみょんが感じた『醒めない』
あいみょんが特に衝撃を受けた歌が、スピッツの『醒めない』だという。
そのときも私は、上から目線で「うむうむ」とテレビを眺めていた。
まあその歌もいいけどね、他にもスピッツはいろいろあるわけでね、そもそもお前はスピッツのルーツを知ってるのかなー?んー?んー?という、おじさんの悪いところが全面に出たような形である。
例えば、草野マサムネさんがエレファントカシマシを聴くときは正座で聴くという話なんかも知っているのかね、そういうのも含めて、おじさんが教えてやらんでもないぞ、などとぼんやり思っていたとき、あいみょんがこんなことを口にした。
彼女は、『醒めない』のサビの歌詞に、衝撃を受けたという。
まだまだ醒めない アタマん中で ロック大陸の物語が
最初ガーンとなったあのメモリーに 今も温められてる
さらに育てるつもり
あいみょん「これだけ日本を代表をするバンドなのに、まだまだ醒めないって言い切れるこの凄さ」
「マサムネさんて、元々はブルーハーツみたいなパンクがやりたかったんだけど、それは自分にはできないと感じ、音楽を諦めようと思ったことがあったらしくて」
「歌詞の『最初ガーンってなったあのメモリー』って、もしかしたらブルーハーツのことなのかなと妄想させる」
「そのメモリーに今も温められてて、あのときの衝動をまだまだ俺らは育てていきたいっていう、それがすごいなって思って。私も頑張ろうって思うし、本当にこの曲には感銘を受けまして」
「私にとってはスピッツが醒めない夢で。それで盛り上がっちゃって、『君はロックを聴かない』が出来た」
こいつ…草野マサムネさんが一番やりたかったのはブルーハーツという話まで抑えてやがんのか。
あいみょんの音楽姿勢
そして彼女はこうまで言った。
あいみょん「草野さんの血液が0.001%でもいいから自分の身体に流れていてほしい。マサムネさんもそうなんですけど、今まで私が憧れてきたみなさんのなんかが、なんでもいいです、細胞が、自分の中にあったらいいって」
「でも(私の音楽は)実際それ(みなさんの音楽)で、できてると思う」
そして私が一番衝撃を受けたのは、このあと放った、彼女のこの一言だ。
「あいみょんっていうアーティストは、いろんな人への憧れのかたまりって思ってるので」
おわかりいただけただろうか。
おそらくアラフォー、アラフィフ世代のロックファンなら、彼女のこの発言が、どれだけすごいかを理解できるだろう。
2流ほどオリジナルを追求する
これは音楽に限らないが、創作において、2流ほどオリジナリティを追求する。
そして一流と呼ばれる人ほど、自分はただのパクリと声高に宣言していたりもする。
NHK『爆笑問題のニッポンの教養』に浦沢直樹さん出演された際に、こう発言している。
浦沢直樹「ローリングストーンズのギターのキース・リチャーズがさ、彼が『自分が死んだら墓碑銘に、過去の遺産を未来に語り継いだ男と刻んでくれ、と。自分のやったことは、そのぐらいだ』って言ってて。ああ、このスタンスはかっこいいわって思ったわけ」
つまり、自分がやっていることは先人たちの受け売りにすぎず、それを下の世代に繋いでいくだけのことしかしていない、といった主旨の話をしたキース・リチャーズに、浦沢直樹さんが感銘を受けたと。
この話の前段では、爆笑問題の太田さんが、
太田光「どうやってもツービートの模倣になってしまう。でもそれを見て育ったんだから、越えられるわけがない」
と話したことに対して、
浦沢直樹「これは新しいと思ってもさ、ちょっと調べるとだいたい手塚治虫先生がすでにやっててさ」
といったやり取りのあとに、お話されたものだ。
つまり、浦沢直樹さんも、爆笑問題も、同様に感じているということ。
あいみょんのすごさ
ただ、浦沢直樹さんも、爆笑問題も、キース・リチャーズでさえ、20代の頃そう思えていただろうか。
いろいろやって、突き詰めて、上り詰めて、結果、本当のオリジナルなんてできない、結局俺はなにかの模倣でしかない、とようやく気づくわけだけど、それを24歳という年齢で、それを理解し、テレビで公言できるだろうか。
番組内で話していた、「(あいみょんは)編曲者にアレンジの注文をしない」というエピソードにも驚かされた。
私は音楽業界に長くいたからとてもよくわかる。
2流ほど注文が多い。
あいみょんは、編曲を依頼しているアレンジャーらのファンであり、彼らもまた一流と信頼しているから、基本は任せているという。
あいみょん「だって、そんなに(いろいろ細かく)注文するなら、お前がやれよって思うだろうから」
と。
あいみょんが支持される理由
そこまで理解できている若いミュージシャンはそういない。
やっぱりこの子は他アーティストとは器が違う。
あいみょんの音楽は、特別、革新的でもなければ、新しさもない。
ただ重要なのは、革新的で新しいから良い、という方程式はどこにもないということ。
だからこそ、今はこういった音楽性が発掘され世に支持されるのは難しい。
今は音楽性よりも、フォロワー数がものをいうから。
音楽メーカーにいたとき新人発掘していたからよくわかる。実際、容姿が良くて、歌が上手くて、いい曲書ける人なんていくらでもいた。
なので、探す方も、とにかく革新的なものばかり探してしまう。
変わり者や、フォロワー数が多いミュージシャンを探すだけのA&Rは多い。それで上に判断されるから。
「俺がこの人を世に売り出したいんだ!」と一人のA&Rが熱意を持っても、上層部から「で、そいつのフォロワー数は?」「動画の再生回数は?」と言われて終わり。
最後は人
それでも、一人の熱量が理屈を越えることもある。
それはもちろん、そのアーティストの音楽的資質もさることながら、最後は人格や性格に帰結するのだ。それが将来性に繋がるから。
今はまだ荒削りでも、みんなでバックアップしていけば、きっと多くの人の心を打つアーティストになるはずだ、というのを見極めるのがA&Rの仕事なのだ。フォロワーが多いインディーズを探すだけなら、誰だってできる。
あいみょんは、彼女が聴いてきた音楽に限らず、ディレクターやプロデューサー、そしてサポートミュージシャンやアレンジャーらと、とてもいい信頼関係が構築できているからこそ、最高の形で彼女の音楽が世にリリースされているのだろう。
彼女自身も、自分の音楽が、自分一人の力で支持されているとは、微塵にも思っていないはず。
全部自分の力量だと勘違いして消えていったミュージシャンも多数知っているし、当時も絶対に関わりたくないと思った。とにかく偉そうで性格が悪いから。
でもどれだけ性格がいい人でも、売れると誰でもそうなる。それくらい回りがチヤホヤしてくれるから。当選した政治家と同じで。
あいみょんのようなアーティストであれば、誰もが関わりたいと、業界人もみんな思うだろう。
彼女が一部の若い層だけでなく、我々のようなアラフォー、アラフィフに支持される理由が、とてもよくわかった放送であった。