出典 : アウトレイジ最終章予告編より
北野武。御年71歳。
小説も書き、映画もやり、その勢いは衰えるどころか、増す一方である。
フィールド
誰もたけしさんを超えることができない理由の一つは、当然、たけしさんの才能にある。
その才能のすごさついては、いまさら私なんかが語るまでもない。国民誰もが認める才能である。
もう一つに、フィールド、というものがある。
これは「フィールド」とも言えるし、「時代」とも言える。
ゲームセンターCXがなぜ成立するか
80年代、90年代、世の中に多彩な才能がごまんと溢れていたのにも関わらず、誰もが当時のものを共通して記憶しているのは、出てくる場所が限られていたからである。
その場所から出てくるものを、ユーザーは取捨選別して受け取っていた。
中には嫌いなものもあるし、気にもならないものもある。
しかし、あとから言われると、「ああ、なんかそんなのもあったかな」くらいには記憶している。
つまり、出てきたものにどれだけ自分が魅力を感じなくても、見覚えはあるのだ。
間違いなくそこから出てきたものだから。
ゲームセンターCXという番組が成立しているのがそれを物語っている。
今の30代、40代が見れば、有野工場長がやってるゲームは、みんな記憶しているのだ。どれだけ「つまらないゲーム」と当時認識していても。
出てくる場所が無限になった
しかし今は違う。
例えば当時のゲームはファミコンだけであったが、今はPlayStation、Xbox、NintendoDS、他にも山程あるし、アプリもあれば、パソコンゲームもある。オンラインゲームも。
そうすると、どうしても票が割れる。どれだけ突出しておもしろいものであっても、ファミコンしかなかった時代に比べれば、誰もが一度は見たことがあるゲームというのは限りなく生まれにくい。
どれだけヒットしても、マリオブラザーズやドラゴンクエストには敵わない。
つまり、ゲームがファミコンしかなかった時代のヒット作というのは、当時のゲームユーザーは90%、いや、100%と言ってしまってもいいほどの認識率に至る。
TV一強時代
芸能界においても同様、当時はテレビ一強時代であった。
なので、当時のテレビスターは圧倒的な認知度があるし、当時のミリオンヒットも圧倒的な認知度になる。
それは、そのタレントを、その歌を、好むと好まざるとにかかわらず、普通の生活をしている限りは、否応なく確実に認識してしまうからだ。
今、どれだけの才能を持った芸人が登場しても、ビートたけしさんや、タモリさん、明石家さんまさんのようになれないのは、そこに絶対的な違いがある。
イチローは長嶋茂雄を越えられない
これはたけしさん本人も認識しているところで、
「技術でいえば、長嶋茂雄さんよりイチローのほうが上なんだけど、やっぱり時代が違うから、長嶋茂雄さんは抜けないんだよね」
と発言されている。
ゲーム、テレビ、歌と同様、スポーツ選手もまた然りなのである。
また、漫才に関しても、たけしさんは「全然今の若手のほうがうまい」ともお話されている。
だから「オイラたちは時代が良かったんだよ」と。
スーパースターは生まれない
つまり、今、テレビの世界で一番になっても、ハードがこれだけたくさんあると、テレビの視聴者数は昔に比べ随分減ってしまっているし、だからといって、YouTubeを制しても、ニコ動もあるし、Twitterもあれば、Instagramもある。
YouTuberがテレビを制するのは難しいし、インスタグラマーがYouTubeを制すのも難しい。
結局、全てを制すのは、昔スーパースターになった人たちがそこに降りてくるパターンのみ。
つまり、たけしさんや、タモリさんが、Twitterをやったり、Instagramやる場合のみである。
ハードが一つしかなかった時代にスターになった人を超えることは不可能なのだ。
あるとすれば、スマホもパソコンもネットも全部捨て、もう一回ハードをテレビだけに戻して、そこでスターになる以外ない。
誰でもスターになれる
暗い話しに聞こえるが、裏を返せば誰でもスターを目指せる時代になったということ。
ビートたけしさんのような存在を目指す人には辛い時代だが、自分の周りの小さい世界だけでもいいから、スターになりたいという人にとってはとてもいい時代である。
ただもちろん、それを「スター」と形容していいのか疑問ではあるが、「スター」や「人気者」といった概念自体も、あと10年もすれば、ずいぶん変わると思う。
もしかしたら、全国的な有名人というのは、政治家や実業家くらいになるかもしれない。
それでもスター
しかし一つ言っておきたいのは、テレビ一強の時代で人気者になれても、30年、40年続けていられるのはほんの一握りだということ。
決して時代が良かっただけで片付けられることではなく、ビートたけしさんの才能と努力の賜物であることには違いない。